10月27日(木)アクロス福岡にて、「アートサポートセミナー基礎編 福祉とアート」を開催しました。参加者は福祉関係者、文化施設関係者、支援団体関係者など25名。FACT センター長の樋口龍二を講師に、福祉とアートに関わって約 25 年の経験から得た数々の事例を紹介。国内での障がいのある人たちの芸術活動の歴史を遡り、これからの福祉とアートの役割や捉え方について参加者の皆さんと考える場を作っていきました。
まずは「福祉とアートの歴史」についての話からスタート。
ここ10年で国の施策などで大きく変化してきている福祉におけるアートの歴史についての話から樋口の経験を交えつつ「障害」や「アート」についての樋口の考えや捉え方についてじっくりとお話しさせていただきました。
この話の中で、福祉においてアート活動を行なっていく際に、表現そのものを成果とするのではなく、その表現を社会へアウトプットすること自体が最も大切だと樋口は言います。
障害者の権利条約が「医学モデル」から「社会モデル」へ変わり、障害者個人の医療的視点から考えるのではなく社会が変化することで、不利益を改善するという考え方が主流になってきている中、まだ福祉業界にこの考え方が浸透していないことも事実。このような現実とどう向き合ってどうコミットしていくのか。
アートは社会とつながるツールであり、彼らの表現力や表現手法、創作にまつわるエピソードなどを我々が伝えることによってその人が障害者施設という枠を超えた一人の表現者として社会と繋がっていくことで障害や福祉やアートの価値観を変えていく可能性があります。
地域社会へのアウトプットをブームとして終わらせないこと、しっかりディレクションすることがこれからの私たちには必要なのです。
次に、『環境整備とアウトプット』について。
今回は「こういった画材や場所を用意している」といった具体的な話ではなく、彼らの表現に対して私たちサポーター(伴奏者)は何をすべきなのか、表現を形にしてアウトプットする為にはどういった発想が必要なのかという点について、工房まるの実例と共にお話させて頂きました。
工房まるの実例では、スタッフやメンバーとの関わりの中で物を机から落とすことを楽しんでいる利用者さんの行動を利用し1点モノのボタンを商品化した「AKIボタンプロジェクト」や、ラジオ好きの利用者さんがラジオパーソナリティーとなったラジオ番組を作った話などを紹介。このラジオ番組にはしっかりとスポンサーもついたのだとか。
利用者さんにしっかりと寄り添いながらぴったりの表現方法を一緒に見つけること、またそれが工賃向上にも繋げていけるようにと日々試行錯誤しながら活動を行なっています。
視点を変えることで生まれてくるアイディアの種を見つけるヒントがたっぷりと詰まった時間となりました。
【大切なのは、突出した何かへの関心や思い入れを、はばかりなく思う存分やってみること】
障がいのある方々も含め私たちサポーター(伴奏者)が大切にしていかなければならない根本の部分なのだと感じます。
最後に、『知的財産権』について。
アート活動を行う上での課題としてよく上がってくるのが「作品・作家の権利擁護、知的財産権について」。当センターにもこのような相談が多く寄せられています。
また、『権利』『知的財産』と聞くと『トラブル』『訴えられる』というようなマイナスのイメージが浮かぶ場合が多く、権利について知ることが億劫になりアート活動も続かなくなる、という話もよく聞きます。
「大切なのは『作者を守るための権利』です。そんなに難しく考える必要はありません。」と樋口は言います。
まずは捉え方を変えること。
『知的財産権』についてわかりやすく紐解いていくために、権利についての話と契約についての話がありました。
権利についての話では、作品(表現されたもの)にかかる3つの権利について「作品を購入する時に動く権利は?」「絵をチラシに使いたい場合は?」「作品をトリミングしたい場合は?」など具体的な例をあげて説明。
続く契約についての話では関わってくる団体の間に発生するそれぞれの契約についての話から、実際に当センターで使っている契約書や、様々な事例を交えながら生まれてくる契約や作品にかける保険の話など、作品や作家を守るために必要な契約についての話を行いました。
今回は基本的な部分のお話となりましたが、権利や契約については状況により様々なパターンがあります。
「知的財産権については基本的なことを理解しつつ、FACTを始めとした中間支援団体へ相談するなど上手く活用して欲しい。近年では障がいのある方々の作品を利用(著作権二次使用)し商品化を行う団体も増え、登録アーティストの募集も増えてきています。こういった活動を視野に入れて作品のデータ化や管理を行なっていくと先々活動しやすくなると思います。大切なのは・周りを頼ること。・「誰のために何を守るのか」をシンプルに考えること。権利を守りつつ、皆様の活動の場が広がることを願います。」と締めくくり、権利についてのお話は終えました。
最後に樋口から「文化功労者に選出された、播磨靖夫さん(たんぽぽの家/奈良)の『文化は寝かせて発酵する時間が大切』という言葉にもあるように、即効性を求めすぎてはいけない、けれどのんびり構えているだけでも変化は生まれません。福祉もアートも関係性から生まれるものであり、関係性を築いていくための願いや思いを抱くことが大切だと思っています。今回はこういった思いから「福祉とアート」についてのお話をさせていただきました。」と熱い思いが語られました。
参加者の皆さんからは
・アートの知識が不足しているということが不安材料として聞かれるが、アートの専門的な知識がなくても必要性を感じて取り組めば、スタートできるのだと感じることができました。
・自分達の仕事はやはり環境支援だと再確認できた。
・福祉や芸術文化について言語化することが難しいなと日々感じている中で、樋口さんの話す言葉はわかりやすくて自然と腑に落ちました。
等の感想をいただきました。
今後も、障がいのある人が絵を描くことが目的とならないように、社会に対して新しい価値を創造していくこと、多様な役割を創出していくこと、を心に留めながら活動を行っていきたいと思っています。
引き続き、どうぞよろしくお願いします!